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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)5078号 判決 1982年10月25日

昭和五四年(ワ)第五〇七八号事件原告、昭和五五年(ワ)第一〇八〇三号事件被告 日本住宅公団訴訟承継人 住宅・都市整備公団

右代表者総裁 志村清一

右訴訟代理人弁護士 草野治彦

右訴訟復代理人弁護士 上野健二郎

右指定代理人 杉本直也

<ほか四名>

昭和五四年(ワ)第五〇七八号事件被告、昭和五五年(ワ)第一〇八〇三号事件原告 新座住宅管理組合

右代表者理事長 山根正子

右訴訟代理人弁護士 関康夫

主文

一  昭和五四年(ワ)第五〇七八号事件原告(昭和五五年(ワ)第一〇八〇三号事件被告)の請求をいずれも棄却する。

二  昭和五五年(ワ)第一〇八〇三号事件原告(昭和五四年(ワ)第五〇七八号事件被告)の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、昭和五四年(ワ)第五〇七八号事件について生じたものを同事件原告の、昭和五五年(ワ)第一〇八〇三号事件について生じたものを同事件原告の各負担とする。

(以下、「昭和五四年(ワ)第五〇七八号事件原告、昭和五五年(ワ)第一〇八〇三号事件被告」を「原告」と、「昭和五四年(ワ)第五〇七八号事件被告、昭和五五年(ワ)第一〇八〇三号事件原告」を「被告」という。)

事実

第一当事者の求めた裁判

(昭和五四年(ワ)第五〇七八号事件)

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1 被告は、原告に対し、金一二九九万八七〇〇円及び内金九九万九九〇〇円に対する昭和五三年五月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する同年六月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する同年七月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する同年八月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する同年九月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する同年一〇月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する同年一一月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する同年一二月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する昭和五四年一月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する同年二月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する同年三月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する同年四月一日から、内金九九万九九〇〇円に対する同年五月一日から各支払済みに至るまで年一割八分二厘五毛の割合による各金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(予備的請求)

1 被告は、原告に対し、昭和五三年五月一日から別紙目録記載の汚水処理施設の明渡済みに至るまで一か月金九九万九九〇〇円の割合による金員及び内各金九九万九九〇〇円に対する同年六月以降の各一日から各支払済みに至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(昭和五五年(ワ)第一〇八〇三号事件)

一  請求の趣旨

1  原告は、被告に対し、金一〇二万二八八〇円及び内金二万六七五二円に対する昭和四六年四月一日から、内金五万八六三三円に対する昭和四七年四月一日から、内金六万一四九五円に対する昭和四八年四月一日から、内金六万九三九三円に対する昭和四九年四月一日から、内金二一万二一六〇円に対する昭和五〇年四月一日から、内金二二万六九四〇円に対する昭和五一年四月一日から、内金一四万三三七一円に対する昭和五二年四月一日から、内金二二万四一三六円に対する昭和五三年四月一日から各支払済みに至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(昭和五四年(ワ)第五〇七八号事件)

一  請求の原因

(主位的請求)

1 日本住宅公団は、住宅の不足の著しい地域において、住宅に困窮する勤労者のために耐火性能を有する構造の集団住宅及び宅地の大規模な供給を行うとともに、健全な市街地に造成し、又は再開発するために土地区画整理事業等を行なうことにより、国民生活の安全と社会福祉の増進に寄与することを目的として、日本住宅公団法により設立された法人であった。

右日本住宅公団は、昭和五六年一〇月一日解散し、その一切の権利、義務は、住宅・都市整備公団法附則第六条に基づき原告が承継した。

2 被告は、日本住宅公団が埼玉県北足立郡新座町大字大和田字大正一七九六番地ほかに建設した新座団地分譲住宅に係る共有物を管理し、かつ住宅及び共有物の使用に伴う組合員の共同利益の維持、増進をはかることを目的とし、組合員は右住宅の区分所有者でその全員が被告の構成員となり、被告は前記目的を達成するため組合規約を有し、意思決定機関として組合総会があり、業務執行者として代表者の定めがある人格なき社団である。

3 日本住宅公団は、右新座町(現在は新座市)に昭和四五年九月二二日までに分譲住宅九六〇戸、同年一一月一三日までに同じく五〇戸(合計一〇一〇戸)を建築し、これらを、そのころ、被告の各組合員あるいは各組合員の前所有者に譲渡した。

4 日本住宅公団は前項分譲住宅建設に伴い、賃貸住宅の賃借人及び分譲住宅の被告組合員が共同使用する別紙物件目録記載の汚水処理施設及びその付帯設備(以下「本件施設」という。)を構築し、その共同使用につき、昭和四五年九月一四日、被告と次のとおりの内容の契約を締結した。

(一) 被告の本件施設の使用開始可能日は同年九月二二日とする。

(二) 被告は本件施設の使用料として、金五五〇円に毎月末日現在の譲渡契約戸数を乗じた額を、偶数月の末日までに当月分及び翌月分を原告の定める方法により支払うこと。

(三) 被告は、前記使用料の支払を遅延したときは、その遅延した額に対し、年一割八分二厘五毛の割合による遅延利息を支払うこと。

(四) 契約の期間は、同年九月二二日から昭和四六年三月三一日までとし、この期間が満了する日の三か月前までに原告、被告双方から何等の申出がないときは、この契約は、契約の期間が満了する日の翌日から同一条件で一年間更新されるものとし、更新された契約についても同様とする。

5 前項(二)については、一戸の月額使用料が昭和五二年四月一日以降金五五〇円から金九九〇円に増額され、支払方法が昭和四八年四月一日以降当月分を当月末日までに原告の指示する銀行に送金することに変更された。

その結果、被告が日本住宅公団に支払うべき月額使用料は金九九〇円に、前記分譲戸数一〇一〇戸を乗じた金九九万九九〇〇円となった。

6 よって、原告は被告に対し、本件施設の使用契約に基づき、昭和五三年四月分から昭和五四年四月分までの使用料合計金一二九九万八七〇〇円及び内各月分の使用料金九九万九九〇〇円に対する各弁済期の翌日である翌月一日から支払済みに至るまで約定の年一割八分二厘五毛の割合による遅延損害金の支払を求める。

(予備的請求)

1 主位的請求の原因1ないし5と同旨

2 主位的請求の原因に対する抗弁と同旨

3 被告は、右更新拒絶の後も、被告の組合員をして従前どおり本件施設を使用させている。

4 日本住宅公団及び原告は、被告の組合員が前項のとおり本件施設を使用していることにより、本件施設の管理維持費等の出捐を余儀なくされており、その損害額は月額金九九万九九〇〇円(被告が本件施設の使用契約に基づいて支払っていた額)であり、右損害は遅くとも各月末日までに生じている。

5 よって、原告は被告に対し、被告が本件施設を明渡すまで一か月金九九万九九〇〇円の割合による損害金及び各月分の損害金に対する損害発生の後である各翌月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

(主位的請求の原因について)

すべて認める。

(予備的請求の原因について)

1 請求の原因1の事実はすべて認める。

2 同2の事実は認める。

3 同3の事実は否認する。被告の組合員は、現在も本件施設を使用しているが、被告が使用させているものではない。

4 同4の事実は否認する。

三  抗弁(主位的請求の原因に対し)

被告は、昭和五二年一二月二七日、日本住宅公団に対し、本件施設の使用契約第一〇条(主位的請求の原因4(四)のとおり)に基づいて、本件施設の使用契約を更新しない旨通知し、右通知はそのころ日本住宅公団に到達した。

よって、本件施設の使用契約は、昭和五三年三月末日限り終了したので、被告は同年四月一日以降の本件施設の使用料の支払義務はない。

四  抗弁に対する認否

前段の事実は認め、後段は争う。

本件施設の使用契約は、被告の組合員所有の住宅から排出される汚水を日本住宅公団所有の本件施設によって処理浄化することを内容とするものであり、地方公共団体の下水道施設のない新座団地においては、本件施設の使用は、被告の組合員の生活及び衛生に必要不可欠の条件である。ところで、本件施設の使用契約には、主位的請求原因4(四)の規定が存し、当事者は一年間の契約期間の満了する日の三か月前までに契約の更新を拒絶することができるのであるが、被告が更新拒絶をした場合には、被告は被告の組合員が本件施設を使用するのを中止させなければならないものと解されるところ、被告の組合員にとって本件施設の使用は前記のごとく生活及び衛生に不可欠な条件であり、被告が組合員の本件施設の使用を中止させることは、人道上、衛生上の見地から事実上不可能である。そうすれば、本件施設を被告の組合員が必要不可欠なものとして使用を継続している以上、被告は本件施設の使用契約の更新を拒絶することはできないものと解されるのであり、主位的請求原因4(四)の規定は、新座団地に地方公共団体の下水道が完備されるか、あるいは被告がその専用の汚水処理施設を建設する等本件施設に代るべきものが存在する場合に限り適用があると解すべきものである。

五  再抗弁(権利濫用)

1  本件施設の使用契約は、被告の組合員所有の住宅から排出される汚水を日本住宅公団所有の本件施設によって処理浄化することを内容とするものであり、地方公共団体の下水道施設のない新座団地においては、本件施設を使用することは、被告の組合員の生活及び衛生に必要不可欠な条件である。

2  本件施設の使用契約の期間は一年で更新可能であるが、期間の満了する日の三か月前までに当事者は更新拒絶することができるとの規定が存するところ、右更新拒絶の場合には、被告は本件施設の使用権を失うから、被告は被告の組合員が本件施設を使用するのを中止させなければならない。しかしながら、被告の組合員にとっては、前記のとおり、本件施設の使用は、生活及び衛生に必要不可欠な条件であるから、被告が被告の組合員の本件施設の使用を止めさせることは、人道上、衛生上不可能である。

他方、本件施設の使用契約には、被告が本契約に違反した場合、日本住宅公団は契約を解除できるとの規定が存するが、仮に、被告が約定使用料を支払わないとしても、日本住宅公団(あるいは原告)が契約を解除して被告に本件施設の使用の中止を求めることは公序良俗に反するもので、不可能である。

3  被告がなした更新拒絶は、本件施設の使用契約における使用料の変更は、一方的な値上通告権を日本住宅公団に認めたもので、被告には反対することは勿論、協議することさえ認められておらず、これでは被告は使用料の負担者である組合員に対して責任を負うことができないので、この点を主として、本件施設の使用契約が、組合員全員の同意を得られる契約内容に改定されない限り、更新を拒絶するというものであった。

しかし、右の点は、以下に述べるとおり理由のないものである。

本件施設の使用料金五五〇円は昭和四五年九月に決定され、その後値上げされないままであったが、日本住宅公団は昭和五二年四月一日からこれを金九九〇円に値上げする旨被告に通知したところ、被告から値上げの具体的内容を明らかにするよう要求があったので、日本住宅公団はその理由について詳細に説明し、その了承を求めたものであり、その理由とするところは、諸物価、人件費の高騰であって、合理的なものであった。なるほど本件施設の使用契約においては、その使用料の変更は日本住宅公団が決定できることになっているが、集合住宅の場合には、貸与者又は供給者に決定権限がなければ、施設等を維持管理したり又は安定した供給を継続することは不可能であり、また、被告が述べるごとく、契約内容を組合員全員の同意の下に改定することも不可能である。

被告は、右使用料の値上後も、昭和五三年三月分までは、値上げされた使用料を支払っていたのであり、右値上げの決定権が日本住宅公団にあることあるいは値上げの額について不満があれば、それは日本住宅公団との話し合いによって解決すべきものである。

4  本件更新拒絶は、被告が日本住宅公団に損失を与える目的をもってなしたものである。

すなわち、被告は、本件更新拒絶により本件施設の使用契約が終了したとする昭和五三年四月一日以降も被告の組合員に本件施設を使用させており、その使用料は払っていないのであり、他方、日本住宅公団(あるいは原告)は、本件施設の性質上被告の組合員の住宅から排出される汚水を浄化処理せざるを得ない立場にある。また、被告の組合員一〇一〇戸について個別に新しく契約を締結することは困難であり、全員から使用料を徴収することができないことは明らかである。

5  以上によれば、被告の本件更新拒絶は、何ら正当な理由のないもので、権利の濫用であり、無効である。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、原告主張の規定の存在は認め、その余は否認する。

3  同3第一段の事実は認め、第二段の主張は争い、第三段の事実のうち、本件施設の使用料金五五〇円が昭和四五年九月に決定され、その後値上げされないままであったこと、日本住宅公団が昭和五二年四月一日からこれを金九九〇円に値上げする旨被告に通知したこと、被告が値上げの具体的内容を明らかにするよう要求したことは認め、その余は否認し、第四段の事実のうち、被告が昭和五三年三月分までは、値上げされた使用料を支払ったことは認め、その余は否認する。

4  同4の事実は否認する。

そもそも、本件施設の使用契約は、日本住宅公団(あるいは原告)が、現実の使用者たる分譲住宅の各居住者と個々的に直接締結すべきものであり、被告は右分譲住宅全体の共有財産の管理が本来的業務であって、本件施設の使用料を各戸より徴収し、それを日本住宅公団に一括して収めるという業務は、日本住宅公団が事務手続の便宜ないしは手を抜くために被告を形式的に本件施設使用契約の当事者としてこれを押しつけて来たもので、実質的には被告が日本住宅公団の使用料徴収事務を代行させられてきたに過ぎないものである。

このような立場にある被告に対し、日本住宅公団は昭和五一年一二月二八日、突然従来の使用料額を二倍近く値上げする旨通告して来たため、被告は説明集会所等を開催し、被告組合員に説得を重ねたが、組合員の強硬な反対に会い事態は紛糾するに至ったが、結局昭和五二年五月二九日の総会において、1、契約書三条の存在がある限り、今回の値上げに限りやむを得ず承認する。2、昭和五三年四月更新される契約には値上げの根拠となる書類の閲覧、及び額の決定につき協議できる旨の条項を入れること、3、右改訂がなされない限り、被告は昭和五三年四月以降の契約は更新しない。との三点を決議し、これを日本住宅公団に通告し、その後日本住宅公団と被告との間で二回にわたる協議が持たれたが、日本住宅公団は被告の要望事項には何ら答えなかったため、被告としてはこのまま契約を継続することについて組合員の総意が得られないことから止むを得ず更新拒絶に至ったものである。

(昭和五五年(ワ)第一〇八〇三号事件)

一  請求の原因

1  昭和五四年(ワ)第五〇七八号事件の主位的請求の原因1ないし5と同旨

2  1の本件施設の使用契約は、日本住宅公団と分譲住宅譲受人間に汚水の浄化処理を目的とした継続的請負契約(以下「本件請負契約」という。)が成立していることを前提とした日本住宅公団と被告間の施設使用料徴収事務の委任契約である。すなわち、本来日本住宅公団が新座団地分譲住宅譲受人から徴収すべき本件施設の使用料について、その徴収事務が右契約により被告に委託されたものである。

3  被告は1の契約に従い、昭和四五年九月から昭和五三年三月まで本件施設の使用料を各分譲住宅譲受人(組合員)から徴収し、これを日本住宅公団に納付した。

被告が右委任された事務を処理するのに必要とした費用は以下のとおりである。

(一) 昭和四五年度、四六年度、四七年度の費用

(イ) 昭和四五年度(四五年九月~四六年三月)

管理組合は住宅譲受人(=組合員)から総額一三八八万二〇〇〇円を収納したが、このうち二四・六パーセントに相当する三四二万円は住宅公団へ納付した使用料である。

ところで、これらの出納事務に要した費用総額は一〇万八七五〇円であったので、このうち二四・六パーセント二万六七五二円が住宅公団からの委任事務に要した費用である。

(ロ) 昭和四六年度

右と同様に、収納総額二七二七万円。うち納付した使用料六六六万円(二四・四パーセント)。

出納事務費用総額二四万三〇〇円。うち委任事務に要した費用五万八六三三円(二四・四パーセント)。

(ハ) 昭和四七年度

右と同様に、収納総額二七二七万円。うち納付した使用料六六六万円(二四・四パーセント)。

出納事務費用総額二五万二〇三〇円。うち委任事務に要した費用六万一四九五円(二四・四パーセント)。

(二) 昭和四八年度~五二年度の費用

(イ) 昭和四八年度

右と同様に、収納総額二七二七万円。うち納付した使用料六六六万円(二四・四パーセント)。

出納事務費用総額二八万四四〇〇円。うち委任事務に要した費用六万九三九三円(二四・四パーセント)。

(ロ) 昭和四九年度

右と同様に、収納総額三三三三万円。

納付した使用料六六六万円(二〇パーセント)。

出納事務費用総額一〇六万八〇〇円

委任事務に要した費用二一万二一六〇円(二〇パーセント)。

(ハ) 昭和五〇年度

右と同様に、収納総額三三三三万円。

納付した使用料六六六万円(二〇パーセント)。

出納事務費用総額一一三万四七〇〇円。

委任事務に要した費用二二万六九四〇円(二〇パーセント)。

(ニ) 昭和五一年度

右と同様に、収納総額三九三九万円。

納付した使用料六六六万円(一六・九パーセント)。

出納事務費用総額八四万八三五〇円。

委任事務に要した費用一四万三三七一円(一六・九パーセント)。

(ホ) 昭和五二年度

右と同様に、収納総額四五四五万円

納付した使用料一一九九万九〇〇〇円(二六・四パーセント)。

出納事務費用総額八四万九〇〇〇円

委任事務に要した費用二二万四一三六円(二六・四パーセント)。

(ヘ) 右委任事務に要した費用合計は一〇二万二八八〇円である。

4  よって、被告は原告に対し、委任事務処理費用償還請求権に基づき、金一〇二万二八八〇円及び各年度に支出した費用に対する各支出の日の後である各翌年四月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による利息の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実はすべて認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実のうち、被告がその主張の使用料を日本住宅公団に支払ったことは認め、その余は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  昭和五四年(ワ)第五〇七八号事件について

(主位的請求について)

1  請求の原因事実、抗弁事実はいずれも当事者間に争いがない。

原告は、請求の原因4(四)の規定について、当該規定が適用されて、被告が本件施設使用契約の更新を拒絶することができるのは、新座団地に地方公共団体の下水道が完備されるかあるいは被告がその専用の汚水処理施設を建設する等本件施設に代るべきものが存在する場合に限られると解すべきであると主張し、証人坂本安弘、同杉本直也は、いずれも右主張に沿うべき旨の証言をするが、一方《証拠省略》によると、本件施設の使用契約書第一〇条(契約の期間)には、「この契約の期間は、第二条に規定する使用開始可能日から昭和四六年三月三一日までとし、この期間が満了する日の三か月前までに甲乙双方から何らの申出がないときは、この契約は、契約の期間が満了する日の翌日から同一条件で一年間更新されるものとし、更新された契約についても同様とします。」との規定が存在すること、右規定にはいかなる場合に「申出」(更新の拒絶)がなし得るのかにつき、明文の規定は存しないことが認められる。

つぎに、《証拠省略》によれば、日本住宅公団関東支社と平塚高村住宅管理組合及び入間豊岡住宅管理組合との間の汚水処理施設等の使用に関する契約書には、いずれもその第九条に、契約の期間を定めるとともに、期間満了前三〇日までに当事者から契約の更新について異議の申立がないときは更に一年間更新され、以後も同様である旨の規定が存し、そして、その但書において、管理組合を構成する組合員の所有する建物に公共下水道が接続する場合には、その前日に契約期間が満了すると規定されていることが認められる。右事実によると、右第九条においては、いずれも、右汚水処理施設等の使用契約の期間満了の原因として、当事者による契約の更新拒絶(「異議の申立」)と並んで組合員の所有する建物への公共下水道の接続が規定されているものと解され、組合員の所有する建物へ公共下水道が接続した場合には、当事者の更新拒絶の有無とは無関係に右各契約はその前日に期間満了により終了するものと解するのが相当である。《証拠省略》によれば、本件施設の使用契約においては、組合員の所有する建物に公共下水道が接続した場合に契約が終了するか否かについての明文の規定は存しないが、本件施設の使用契約においても、右と同様に、組合員の所有する建物に公共下水道が接続した場合には、当事者の更新拒絶の有無とは関係なく本件施設の使用契約は終了するものと解するのが相当である。というのは、組合員所有の建物に公共下水道が接続した場合には、それまで、本件施設の使用契約に基づいて被告が使用していた本件施設は、いわばその役目を終えたことになり、本件施設の使用契約も当然期間が満了するものと解されるからである。以上は、被告が、その専用の汚水処理施設を建設した場合にも同様である。

以上によれば、請求原因4(四)の規定の解釈についての原告の見解は採用し難く、他に右規定を原告主張の如く解釈すべきことを認めるに足りる証拠もない。

なお、本件施設の使用が被告の組合員にとってその生活及び衛生上必要不可欠の条件であるとしても、被告の組合員が個々に原告と本件施設の使用契約を締結することによって本件施設を使用する途が法律上残されているのは後記のとおりであるから、被告が本件施設の使用契約の更新を拒絶することができないとは直ちに断じ難い。

2  次に、再抗弁について判断する。

(一) 再抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

(二) 同2の事実のうち、本件施設の使用契約に原告主張の各規定が存することは当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、日本住宅公団と千葉県船橋市行田町一五番地三の行田団地の分譲住宅譲受人との間においては、個別に排水施設の使用契約が締結されていること、右契約には、本件施設の使用契約と異なり、当事者が更新を拒絶することができる旨の規定は存在しないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によると、被告の更新拒絶により本件施設の使用契約が終了したとしても、被告の組合員は、日本住宅公団(あるいは原告)と個別に本件施設の使用契約を締結し、従前どおり、本件施設により汚水を処理することが可能であるものと認められ、右(一)の事実、すなわち、被告の組合員にとって本件施設が日常生活上必要不可欠で寸時たりとも使用を中止することができないものであること、及び新座団地分譲住宅を分譲したのが日本住宅公団であることを考慮すれば、日本住宅公団(あるいは原告)としても、分譲住宅の売主として買主である被告の組合員が従前どおり、本件施設により汚水を処理することができるように、被告の組合員との間で、個別に、本件施設の使用契約をすみやかに締結しなければならないものと認めるのが相当である。日本住宅公団(あるいは原告)にとって被告の組合員と個別に右契約を締結することは、組合員の数が多いことから事務手続の上で煩雑困難が伴うことは十分予想されるけれども、この点をもってしては、右の判断を左右することはできないものと解する。

ところで、新座団地分譲住宅の譲受人が本件施設を生活及び衛生上不可欠なものとして使用している以上、日本住宅公団(あるいは原告)が、被告の各組合員に対し、本件施設の使用の中止を請求することは、日本住宅公団が新座団地分譲住宅の売主であること及び本件施設の性格、機能から考えて、不可能であると解されるところ(この点は、原告も自認するところである。)、本件施設の所有者たる日本住宅公団(あるいは原告)にとって不可能である以上、被告もまた被告の各組合員の本件施設の使用を中止させることはできないものと言わざるを得ないことになり、そうとすれば、被告が原告に対し、被告の各組合員が本件施設を使用するのを中止させるべき義務を負担するものとは断じ難い。

(三) 同3第一段の事実、第三段の事実のうち、本件施設の使用料金五五〇円が昭和四五年九月に決定され、その後値上げされないままであったこと、日本住宅公団が昭和五二年四月一日からこれを金九九〇円に値上げする旨被告に通知したこと、被告が値上げの具体的内容を明らかにするよう要求したこと、第四段の事実のうち、被告が昭和五三年三月分までは、値上げされた使用料を支払ったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、本件施設の使用料の値上げの理由は、物価、人件費の上昇にあったこと、値上げの理由については数次に亘り文書で被告に説明がなされ、昭和五二年一月一三日に原告は、被告の理事らに口頭による説明をしたこと、昭和五二年五月二九日の被告の通常総会においては、値上げについての承認は得られたものの、値上げの幅が大きいこともあって(八〇パーセントの値上げとなる。)、使用料の値上げを日本住宅公団が一方的になし得るという契約は不当であり、更新を拒絶すべき旨決議されたこと、右決議に従い、被告は日本住宅公団に、前記更新拒絶の通知をしたこと、使用料の値上げについて日本住宅公団が現実に汚水を排出している被告の組合員に直接説明したことはなかったこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上によると、日本住宅公団のなした使用料の値上げが物価、人件費の上昇を理由とするもので合理性を有するものであり、集合住宅においては、供給者に使用料の値上げをすることのできる権限を有しないと施設の維持管理が不可能であるとしても、日本住宅公団としては、被告及び被告の組合員に対し、その納得を得るように説明することは要求されるものと考えられるが、日本住宅公団が現実に本件施設を使用して汚水を排出し、その使用料を負担している被告の組合員に直接値上げの具体的理由について説明したことはなかったのであるから、この点において、適切でなかったと言わざるを得ない。

(四) 同4の事実中、被告が日本住宅公団に損失を与える目的をもって本件更新拒絶をしたとの事実は、本件全証拠によるも認めることはできない。

(五) 以上(一)ないし(五)によれば、被告の本件更新拒絶が権利の濫用に該当すると認めることはできず、他に本件更新拒絶が権利の濫用に該当すると認めるに足りる証拠もない。

3  以上によれば、原告の請求は理由がない。

(予備的請求について)

1  請求の原因1、2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  ところで、本件施設の使用契約が被告の更新拒絶により終了した場合において、被告がその組合員の本件施設の使用を中止させなければならないと解すべきでないのは前記のとおりであり、更新拒絶がなされた以上、原告が本件施設の維持、管理等の出捐を余儀なくされて損害を蒙ったとしても、それは、現実に汚水を排出している被告の組合員に対して請求すべきが筋であり、それを被告に請求することはできないものと解するのが相当である。

3  以上によれば、その余の判断をなすまでもなく、原告の請求は理由がない。

二  昭和五五年(ワ)第一〇八〇三号事件について

1  請求原因1の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2  被告は、本件施設の使用契約は、日本住宅公団と分譲住宅譲受人間に汚水処理を目的とした本件請負契約が成立していることを前提とした日本住宅公団と被告間の施設使用料徴収事務の委任契約であると主張するが、本件全証拠によるも、日本住宅公団と被告の組合員(分譲住宅の譲受人)との間に汚水処理を目的とした請負契約が成立したものとは認め難く(不文契約としても認められない。)、また、本件施設の使用契約が日本住宅公団と被告間の施設使用料徴収事務の委任契約であるとも認められない。

すなわち、本件のように日本住宅公団、分譲住宅譲受人及び分譲住宅譲受人により構成される管理組合の三者が存在する場合において、日本住宅公団所有の汚水処理施設を使用するについては、被告主張のごとく日本住宅公団と分譲住宅譲受人とが汚水処理施設の使用契約を締結し、管理組合と日本住宅公団とが使用料徴収事務委任契約を締結し、これに基づいてその構成員から使用料を徴収し、日本住宅公団に納付するという形式の契約が成立し得るものであり、現に、《証拠省略》によれば、日本住宅公団と千葉県船橋市行田町一五番地三の行田団地の分譲住宅譲受人との間においては、日本住宅公団所有の排水施設の使用契約が締結されていること、同団地においては、従前は、管理組合が分譲住宅譲受人から排水施設の使用料を徴収した上で日本住宅公団に一括納付していたことが認められるのであるが(但し、昭和五五年一二月二六日以降は、日本住宅公団(あるいは原告)が分譲住宅譲受人から個別に排水施設の使用料を徴収していることも認められる。)、これと異なり、日本住宅公団と管理組合とが汚水処理施設の使用契約を締結し、日本住宅公団との関係では、管理組合が汚水処理施設を使用すべき権利を取得し、管理組合の構成員である分譲住宅譲受人の排出した汚水の処理は、右管理組合の取得した汚水処理施設の使用権に基づいてなされ、使用料は管理組合が日本住宅公団に支払う(現実に汚水を排出するのは、分譲住宅譲受人であり、その処理が管理組合の取得した権利に基づいてなされるのは、管理組合とその構成員である分譲住宅譲受人の間の内部関係にとどまる。)という形式の契約もまた十分に成立し得るものであって、本件における被告と日本住宅公団の間での汚水処理施設等の共同使用に関する契約によれば、本件施設の使用契約は、右前者の形式によったものではなく、むしろ右後者の形式によったものと認めるのが相当である。

3  右によれば、日本住宅公団と被告との間に、本件施設の使用料徴収事務の委任契約が成立していることを前提とする被告の請求は、その余の判断をなすまでもなく、その前提を欠くもので失当である。

三  以上によると、原告の主位的、予備的請求及び被告の請求はいずれも失当として棄却すべきことになるので、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒井真治 裁判官 岩田嘉彦 野尻純夫)

<以下省略>

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